今回は大規模言語モデルを使ったAIツールConsensusを見ていきたいと思います。
これまでに紹介した文献検索ツールの中でも検索機能に特化している分、使いやすく、無料で何度でも検索ができる点もポイントです。個人的にはかなりオススメです。
今回も動画による解説を入れていますので、具体的な動作をみたい方はこちらへどうぞ。
Consensusとは?
Consensusは2022年に科学者の二人によって立ち上げられた文献検索特化のツールです1。創設の目的としては「科学を民主化すること」「デマに対する解毒剤となること」を挙げています。
確かに例として出される質問をみると「睡眠不足はアルツハイマー病のリスクになりますか?」のようなものがあり、専門的知識がない人が質問をして、それに対する専門的な知識を踏まえた回答を出すことを目的としている感じがあります。
こうしたyes/noタイプの質問の他、キーワードや複数の用語の関連性など多様な検索ワードに対応されています。
「科学の民主化」という理念に根差しているためか、ツールのメカニズムに関する説明も比較的多く、公式ページに詳しく載っています2。
データベースはSemantic Scholarを用いています。過去の記事でも触れましたがSemantic scholarは機械学習を活かした文献検索ツールで2024年現在で2億以上の文献がストックされています。
また、文献の優先順位の判断は引用数のみでなく、引用された速度、研究デザインなど複数の指標を用いて行われているようです。
さてそれでは実際の機能をみていきたいと思います。
基本的な機能と使い方
これまで紹介してきたツールと異なり、検索機能のみとなるため、かなりシンプルです。
ホーム画面の検索フォームから質問を入れて検索が始まります。
ここでの質問は文章でもキーワードでも複数のキーワードを並べる形でも、いずれもOKです。
個々の文献情報
検索すると個々の文献の要約や結果が出てきます。
まず質問に対するその論文の回答が簡潔に書かれます。
続いて、引用ジャーナル、著者、引用数、出版年が並びます。
そして分かりやすいのは研究デザインがアイコンとして表示される点です。
これ、個人的にはとても気に入っています。ランダム化比較試験、メタ解析、レビュー、動物実験とそれぞれどんなデザインなのかはどう読むかどう判断するかにおいてとても重要ですが、一見タイトルだけでは分からないこともあります。アイコンですととてもポップで見やすくどれを詳しくみるか選抜するうえでも大変役立ちます。このアイコンを含めデザイナーの手腕だと思うのですが、Consensusはカラフルで楽しそうなデザインなのが結構好きです。
またデータベースのうちトップ5%の文献については"highly cited"アイコンが付きます。なお、アイコンにカーソルを合わせると親切なことに説明が出てきます。ここには、引用数が多い=妥当性が高い、というわけではないことがきちんと注釈されています。他に"Rigorous journal(正確なor厳密なジャーナル)"、"Highly rigorous journal"というアイコンもあり、それぞれSciscoreの平均となるRTIというスコアがジャーナル全体のうち上位10%, 50%のジャーナルを示しています。果たしてこれが本当に役に立つのかどうかという問題もありますが、この辺の指標についてはまた改めて別記事でいつかまとめたいと思います。
さらに下方にはStudy Snapshotというトグルメニューがあります。押すとPopulation, Sample size, Methods, Outcomeをみることができます。基礎研究領域ではあまり役に立ちませんが、臨床医学においては非常に秀逸な機能だと思います。大まかな研究の概要が把握しやすいです。アイコンもポップでかわいい、、。
加えて右下端にあるsaveと書かれたブックマークアイコンを押すとその文献についてリストに保存できます。
あとは個々の文献がひたすら並んでおり、Load moreを押すことでさらに表示を増やしていくことができます。
また、途中で"Related searches"として関連する質問の例が出てきます。気になるものがあればこちらも押してみると関連する別の検索を行っていくことができます。
検索結果の要約
検索の際に、Synthesizeと書いてあるスイッチをオンにしておくと、検索時に検索結果全体の要約が出現します。
検索後の画面上部に検索結果に応じたサマリーとyes/noタイプの質問であればyes, no, possiblyの3段階で評価が出てきます。
beta版ですので今後は変更が色々入るかもしれません。ここで検索結果概ねの傾向が分かります。
サマリーはかなり短めの文章で、どれだけの文献の結果が分析されたかは書いてありますが、文章中に個々の文献の引用はありません。あくまで大まかな傾向を説明しているものだと考えたほうが良さそうです。
検索結果のフィルタリング
検索結果は簡便なフィルタリングをすることができます。
項目としては
- 年代
- オープンアクセスの有無
- 引用数
- 研究デザイン
- ジャーナルランク(Scimago Journal Rankの四分位範囲で指定)
- 研究領域のジャンル
- 国 でそれぞれ絞れます。
通常の検索データベースほどの絞り込みはできませんが、機能としては概ね十分であるとは思います。
検索結果による回答生成
新しい機能としてMicrosoftのCopilot機能が使えるようになっています。これは検索フォームの下側、Copilotのスイッチをオンにすることで使用できるようになります。
質問に対する検索結果の文献を指示した通りにまとめてくれるような機能です。Perplexityの検索辺りに近いのではないでしょうか。ただ引用数と文章量は結構多く、文献を10個くらい引用してくれたりしますので、同じツールと比べるとやや多い印象です。
公式ページの質問例では "Review the literature on the relationship between socioeconomic factor and healthcare outcomes in America"
のようにあるテーマに沿った文献をどうしてほしいのか指示するような形になっています3。
文献検索するのみでなく、内容に応じてまとめ上げてほしいときはこの機能が良いでしょう。アカウント画面から変更すれば、日本語にも対応できます。
ただし、このcopilotと前述した検索結果の要約機能のsynthesizeはAI creditというものを消費します。
無料プランでは概ね月に20回までであれば使用可能となっています。
臨床的な疑問の具体例
では過去にScispace, Perplexity, Elicitでも行ってきた臨床的な質問の例をここでも試してみたいと思います。
質問は"Is heparin effective for the treatment of acute ischemic stroke?"というもので「脳梗塞急性期にはヘパリンによる治療が有効か?」という内容です。日米のガイドラインで引用されていたメタ解析など重要な論文が出てくるかをみていきます。
まず普通の検索で試してみるとトップに出てくるのはNEJMに載ったランダム化比較試験です。これは低分子ヘパリンが6か月後の予後で有効性を示したという大事な論文です(ただ、実際の中身をみると有効性といっても最初の10日間の治療でこの差の出方がどこまで本当に効果を示しているかは単独では疑問ですが)。続いて下の方をみていくと2020年のメタ解析が出てきます。2020年となると米国ガイドラインは2019年なので入っていないのもやむを得ないかとは思います。
しかしながら、なかなかガイドラインで引用されていたメタ解析は出てきませんでした。そこでフィルタリングをメタ解析のみに絞ってみてみました。それでも目当てのメタ解析はなかなか出ません、、、。
もういっそタイトルでそのまま検索してやろうと思い、日米双方のガイドラインで引用されていたCochrane databaseに登録されている"Anticoagulants for acute ischaemic stroke"を検索してみましたが、米国のガイドラインで引用されていたもう一方のメタ解析はみつかったものの、コクランレビューの論文はなぜか最後まで出てきませんでした。
データ元であるSemantic Scholarでは、タイトルで検索すると一発でみつかりました。
なぜ出てこなかったのかは結局よく分かりませんでしたが、やはり通常の文献データベースと比較すると文献の網羅性にはどうしても難がありそうです。
料金
最後に料金体系ですが、2024年時点の現在のところ無料ユーザーでも登録があれば検索回数の制限はなく使えます。
ただし、AIを使ったsynthesizeとcopilot機能は月20回までです。また、検索結果でみられるstudy snapshot(研究の対象、サンプルサイズ、メソッド、アウトカムなどの簡潔なまとめ)が一部しかみられません。
また、検索結果や文献のブックマーク機能も数に制限があり、検索結果は1つ、文献は10個までしか保存できません。
月$8.99(月契約では$11.99)の課金で有料会員になることができ、そうするとこれらの制限はなくなります。
無料ユーザーでも十分使える機能とはなっていますが、気に入ってより使いこみたい場合は有料会員になるのがよさそうです。なお、登録なしでも使用できますが、度々サインアップの表示が出てきたり、検索制限がかかりやすいので、使いたい方は無料のユーザー登録はしておくのがおすすめです。
まとめ
文献検索機能のみに特化したAIによる文献検索ツールConsensusを紹介しました。
デザイン性も良く、検索結果の見やすさと簡便さは他のツールよりも群を抜いていると思います。文献のフィルタリングもしやすいことと、無料のユーザーでも検索できる点も良い点です。
文献の網羅性には限界がありそうですが、少なくとも大まかにメジャーな文献を知るには良いのではないでしょうか。
次回はこれまでの文献検索ツールと合わせてそれぞれを比較、使用方法について検討したいと思います。
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