学会発表や論文作成において、実験器具、生物、細胞、臓器などの図解は欠かせません。しかし、質の高い素材を見つけるのは意外と大変ですよね。
特に科学的に正確な画像というのは一般的な素材サイトでは見つけるのが大変で、前回紹介したような生成AIを使った図解作成はまだまだ一発でうまくいくものではありません。
そこで今回は、科学・医学・生物学系の分野で役立つ高品質な素材サイトを6つご紹介します。無料で利用できるものから、有料だけど圧倒的なクオリティを誇るものまで、実際のサイトを見ながら詳しく解説していきます。
動画での紹介はこちら▼
サムネ及び動画内画像の出典:
"Mouse" by Ethan Tyler, Lex Kravitz, available at SciDraw, licensed under CC BY 4.0, DOI: 10.5281/zenodo.3925901
"Eppendorf tube" by Diogo Losch De Oliveira, available at SciDraw, licensed under CC BY 4.0, DOI: 10.5281/zenodo.3925953
Image provided by Servier Medical Art, licensed under CC BY 4.0
"Crypturellus variegatus" by J. N. Wiegers, uploaded by Yannick Wiegers, available at PhyloPic, licensed under CC BY 4.0
目次
- 著作権とCreative Commonsの基礎知識
- Servier Medical Art - 製薬会社提供の高品質素材
- SciDraw - 科学者による実験器具イラスト
- BioRender - プロ仕様の図解作成ツール
- Mind the Graph - コスパ最強の有料サービス
- PhyloPic - 生物種のシルエット素材
- Bioicons - 生物学系アイコン集
- まとめ
著作権とCreative Commonsの基礎知識
素材サイトを紹介する前に、必ず知っておきたい著作権の問題とCreative Commonsについて確認しておきましょう。
Creative Commons(CC)とは?
著作権は各国の法律で定められていますが、国際的に著作物の利用を分かりやすくするための表記がCreative Commonsです。この利用のルールを守っていけば大きく間違えることはないと思います。これから紹介する素材サイトにはこれらの記載がたいていありますので、チェックしながら使ってみてください。
最も一般的なライセンス「CC-BY 4.0」
- 出典元さえきちんと書けば、利用・改変・商用利用もOKという比較的緩いライセンス
- 「4.0」は現在最新のバージョン

制限が追加される記号
- ND(No Derivatives):改変不可
- SA(Share Alike):同一条件で配布
- NC(Non-Commercial):非営利目的のみ
最も自由度の高い「CC0」
- 著作権が放棄されており、出典表記なしで自由に使える
- パブリックドメインと同等の扱い
TASL原則:推奨される引用の仕方
CC-BYライセンスの素材を使用する際は、以下の4要素を記載することが推奨されています(TASL原則):
要素 | 説明 | 例 |
---|---|---|
Title(作品名) | 作品の名前 | "Mouse" |
Author(作者名) | 作者や制作者 | by Ethan Tyler, Lex Kravitz |
Source(出典) | リンク先URL | https://scidraw.io/drawing/123 |
License(ライセンス) | 使用ライセンス | CC BY 4.0 |
記載例:
"Mouse" by Ethan Tyler, Lex Kravitz, available at SciDraw, licensed under CC BY 4.0
CCについて知る場合は、これらのガイドラインを参照にすると良いかもしれません。一度は目を通しておくことをお勧めします。
- Creative Commons 公式サイト
https://creativecommons.org/licenses/ - CC BY 4.0 ライセンスページ
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
ではここからは具体的に素材サイトの紹介をしていきます。
1. Servier Medical Art
URL: https://smart.servier.com/
特徴
製薬会社Servier社が無料で提供する、医学的に正確な図解素材集です。段違いでクオリティが高く、以下のような素材が大量に揃っています:
- 各臓器の解剖図(脳、心臓、大腸など)
- 細胞や分子レベルの図解
- 生化学実験に関する器具
使い方

- カテゴリー(Cellular biology、Organs、Lab equipment等)から選択
- さらに細かいサブカテゴリーで絞り込み
- 個別にPNG形式でダウンロード、またはパワーポイント形式で一括ダウンロード
例えば神経のシナプスの画像なども以下の様にそろってます。▼

ライセンス
- すべてCC-BY 4.0
- 商用利用・改変OK(要出典表記)
おすすめポイント
企業が提供しているため、医学的な正確性が保証されており、論文や学会発表にそのまま使える品質です。検索機能も充実しており、必要な素材をすぐに見つけられます。
2. SciDraw
URL: https://scidraw.io/
特徴
科学者の好意で共有されている、実験器具や動物のシンプルなイラスト集です:
- 実験器具のイラストが充実
- 動物実験に使う生物のイラスト
- Methodsセクションの図解に最適
- SVG形式も多く、拡大に強い(ポスターにもおすすめです)
使い方

- 検索またはカテゴリーから素材を探す
- クリックすると作者名や詳細情報が表示
- SVGまたはPNG形式でダウンロード

ライセンス
- すべてCC-BY 4.0
- 多くの素材にDOI(Zenodo経由)が付与されている
おすすめポイント
画風は人によって異なりますが、実験方法を説明する際に必要な器具類が豊富。SVG形式が多いので、ポスター発表でも綺麗に印刷できます。
3. BioRender
URL: https://www.biorender.com/
特徴
有料の専門的な図解作成ツールです。教育目的なら機能制限付きで無料利用可能:
- パワーポイントのような操作性
- 統一感のある高品質な素材
- 一つのアイコンをとっても多様なスタイル
- テンプレートが充実
- ブラシツールで素材の変形も可能
かなりの大手で論文にも使える超高クオリティな図解が作成できますが、金額が高いです。
使い方
- マイページで新規プロジェクト作成(無料版は5個まで)
- 左側のツールバーから素材を選択・配置
- 色や透過性などを調整
- ファイル>エクスポートで出力
価格・制限
- 無料版:低解像度出力のみ、透かし付き
- 有料版:月額$35〜
- 論文投稿時は有料版が必須
おすすめポイント
素材の品質と種類は圧倒的。論文投稿時のみ一時的に契約するという使い方も可能です。
4. Mind the Graph
URL: https://mindthegraph.com/
特徴
BioRenderと似た有料サービスですが、価格が圧倒的に安い:
- リアル寄りのイラストスタイル
- 生物学系全般をカバー
- テンプレートも充実
- 学生なら月額473円程度(2025/06現在)
使い方
BioRenderと同様の操作性で、ブラウザ上で図を作成します。
おすすめポイント
自分の使いたい素材が揃っているなら、価格的にはBioRenderよりもこちらがおすすめです。事前に素材とテンプレートを確認してから決めましょう。
5. PhyloPic
URL: http://phylopic.org/
特徴
様々な生物種のシルエット素材に特化:
- 研究者が作成した正確な生物シルエット
- 正確な学名付き
- SVG、PNG形式で提供
- 系統樹や分類図に最適
ライセンス
素材によって異なるため要確認:
- CC0(パブリックドメイン)
- CC-BY 4.0
- CC-BY 3.0(古い形式)
おすすめポイント
様々な生物種を扱う研究者には必須。系統関係を示す図を作る際に重宝します。
6. Bioicons
特徴
生物学系の画像アイコンが揃うサイトです。


- 個人がアップロードするためニッチな素材も
- プログラミング関係のアイコンもあり
- スタイルは統一感がない場合も
おすすめポイント
他のサイトで見つからない素材が意外と見つかることがあります。掘り出し物を探す感覚で使うと良いでしょう。
まとめ
サイト名 | 特徴 | ライセンス | 価格 | おすすめ用途 |
---|---|---|---|---|
Servier Medical Art | 医学的に正確な高品質素材 | CC-BY 4.0 | 無料 | 論文・学会発表全般 |
SciDraw | 実験器具が充実 | CC-BY 4.0 | 無料 | Methods図解 |
BioRender | プロ仕様の作成ツール | 独自ライセンス | 月$35〜 | ハイクオリティな論文図 |
Mind the Graph | コスパ最強の作成ツール | 独自ライセンス | 月473円〜 | 予算重視の図解作成 |
PhyloPic | 生物シルエット特化 | 素材により異なる | 無料 | 系統樹・分類図 |
Bioicons | ニッチな素材も | 素材により異なる | 無料 | 特殊な素材探し |
ざっとまとめるとこんな感じです。前回記事で紹介した生成AIでの図解作成で作った図と合わせながら使ってみると結構いろんな図解が好きに作れるのではないかと思います。
今回詳しく紹介していませんが、Wikimedia CommonsにもCreative Commonsライセンスに従った科学系素材が多数あります。特に解剖図や顕微鏡写真などが充実しているので、ぜひチェックしてみてください。
科学系プレゼンテーションにおいて図の利用は理解を進めるうえで特に重要です。他の分野の研究者との共同研究ではこういったコミュニケーションが大事なことを最近肌で実感しております。みなさんもぜひ良い素材を探したいときはお役立てください。
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