みなさんこんにちは、tosukeです。
研究者が論文を書くうえで欠かせない文献管理のソフトウェア。 無料から有料まで色んな種類があり、どれを使って良いか分からないこともままあると思います。
そこで今回は特に最近に人気の高いPaperpileを含め、4種類の論文管理ソフトを比較してみることにしました。無料ソフトとしてMendeley, Zotero, 有料ソフトとしてPaperpile, Papersを紹介していきます。
使用感のわかる動画も合わせて載せておりますので、ぜひ雰囲気をざっくりと見てみてください。
また、タブレットでのiOS appやウェブブラウザの使用感はこちらの動画でまとめています。Zoteroはアプリがありますが、公式のストレージを購入していないとあまり使い物にならないのでこちらの動画では含めていません。
ちなみに私はこれまでMendeley > Paperpile > Zoteroの順に使ってきており、現在はZoteroユーザーです。COIはございませんが、意見が多少偏る可能性はあることをご了承ください笑
では見ていきましょう。
そもそも文献管理ソフトとは?
年々増加し続ける論文数。生物医学分野の主要なデータベースであるPubmedに収録されている論文数はいまや3728万件(2024年現在)となっています1。
そこでこれらの大量の文献を読みこなし、整理し、引用をしていくためには、それを管理するソフトウェアがもはや欠かせない存在といえます。
自分できっちりフォルダ分けして整理していた人がいるかもしれませんが、それでも困るのは論文を書くときです。論文では引用した論文を参考文献として必ず情報入力する必要がありますが、手入力でやるのはあまりにも大変です。
文献管理ソフトの多くは、論文のpdfファイルを入れると自動的に文献情報を入手し、さらにWordと連携して引用と引用番号を自動で割り振ってくれます。
逆にこれがなかったら悍ましいほどの仕事量が増えてしまいます、、、。
文献管理ソフトは大学生・大学院生、また研究者にとって必要不可欠な存在と言えるでしょう。
今回紹介する文献管理ソフトの比較まとめ
文献管理のソフトはフリー、無料のものから有料のものまで幅広く存在します。上述したような「文献情報の自動取得」「Wordと連携しての引用」はほぼ全てのソフトで実装されている機能ですが、他にはファイルの保存先、インターフェイス、メモ機能、タブレットでの使用などに細かな違いがあります。
そこで今回は無料ソフトとして人気の高いZotero, Mendeleyと有料ソフトとしてPaperpile, Papersを比較しながら紹介します。
まず初めにそれぞれの違いについて簡単に表にまとめました。
簡単にメリットやデメリットをまとめてみると以下のような感じになります。
Zotero
メリット:無料、保存先が自由、拡張機能が多彩
デメリット:設定が若干面倒、無料のため細やかなサポートはない
Mendeley
メリット:無料、学術論文共有コミュニティがある
デメリット:iOS appがない、2GBを超えると有料になる
Paperpile
メリット:設定が簡単、アプリも使いやすい、GoogleDriveとの同期が簡単
デメリット:有料(アカデミア 月$2.99, 企業 月$9.99)、GoogleDrive限定など設定の自由度が低い
Papers
メリット:関連論文やレコメンドなど多機能、容量無制限
デメリット:有料(学生 月$3, アカデミア 月$5, 企業 月$10)、保存先が固定
では、続いてそれぞれ概要と文献用のストレージ、使用感について詳しくみていきます。
Zoteroの比較レビュー
概要
Zoteroはオープンソースの無料ツールです。オープンソースというのはプログラムのためのコードが公開されているという意味です。コードが公開されていることで連携できる拡張機能などをコアなユーザーが作ることができます。
2006年にver.1が作られており、もともとはWebブラウザであるFirefoxの拡張機能だったようです。現在はデスクトップ版でしっかり機能しています2。
特に有名なものとしてZotfileという拡張機能があり、クラウドでの論文ファイルの管理やタブレットのpdfリーダーへ論文を送って読むこともできます。こちらはどうやらHarvard Universityの社会学の教授がどうやら作っているようです。
無料ではありますが、海外を含めユーザー数は多いため、今のところはしっかりとソフトの更新・維持がされています。
ストレージ
論文ファイルのストレージですが、デフォルトで300MBのストレージがありますが、普通に使っていると不足します。そこで、上述のZotfileを用いることでDropbox, Google Drive, iCloud Driveと好きなクラウドと連携が可能です。例えばGoogle Driveは無料でも15GBの容量があり、十分使えます。ここが非常に便利な点ですね。
使用感
画面はこんな感じでシンプルな作りです。
個人的に気に入っているのはマークダウン形式でのメモ機能。論文ごとに作ったり、メモを検索することもできます。
タブレット用のアプリもありますが、Zoteroのストレージを使ってないと同期できず、あまり役に立ちません。そこでpdfリーダーと先ほどのZotfileを使うと同期ができます。使い勝手は個々のpdfリーダーに依存しますが、今は優れたpdfリーダーも多いのであまり困ることはないでしょう。
Zoteroの設定方法と使い方についてはこちらの記事にまとめていますのでよければご覧ください。
Mendeleyの比較レビュー
概要
Mendeleyは超大手の学術出版社Elsevierによる論文管理ツールです。無料で提供されています。Mendeleyという学術論文共有のネットワークサイトがあり、自分の読んでいる論文に合わせてrecommendationもしてくれます。ソフトとサイトとの連携は当然やり易くなっています。
Webブラウザからの取り込みやワードとの連携もしっかりできますので、無料であるものの、この辺の使い勝手は全く問題ないです。
2007年にロンドンでPhD studentにより作られて起業し、2013年にElsevierに買収されたようです。改めてみてみるとどのソフトもアカデミア発のものが多いですね3。
ストレージ
2GBまでのクラウドストレージと100MBの共有用ストレージが無料です。2GBを超えると5GBまでは月$4.99, 10GBまでは月$9.99、そしてそれ以上は月$14.99で無制限となっています。
これは分野と自分がどれだけ論文を入れるかにもよると思うのですが、私の場合医師になってから約10年近くで論文のフォルダが7GBを超えていますので将来的な目線を含めて考えると、無料の2GBは心もとないのかなと思います。
使用感
基本の画面は他と同様で使いやすいです。フォルダ管理やタグの管理もできます。
メイン画面の表示を増やしたり減らしたりの調整もできるので好みで多少調整できます。
右上のviewボタンで変更すると(上図)、表示内容を変更できます(下図)。
また、アイテムの左端のボタンで一時的な選別としてreadとunreadの管理ができたり、星マークを付けて区別したりすることができます。
注釈やメモなどの機能も普通に使えます。
前述していた通りタブレットとの相性は悪く、iOSアプリも以前はありましたが、現在はなくなっています。Webブラウザ版にアクセスできるのですが、これがタブレットからはとても使いにくい。論文をタブレットでよく読む人にはおすすめしにくいです。
タブレットでの使用感については冒頭の動画もご覧ください。
Paperpileの比較レビュー
概要
Paperpileは複雑な機能を取り去り、"just works"なシンプルに使える文献管理ソフトをということで作られたソフトです。3名のcomputer biologistによって2012年に作られており、比較的新しいソフトと言えます4。
有料ツールでもあるため使いやすさはかなり行き届いており、実際他のソフトからの文献の引っ越しもとても簡単に行うことができました。
Googleとのつながりが強いことが特徴で、Google DocsやGoogle Drive、Google Chromeでの機能が特に使いやすいです。ただもちろんMicrosoft Wordでも使えますし、他のWebブラウザでも使えます。
ストレージ
論文のストレージとしてGoogle Driveを使用することができ、連携も指示に従うだけでできましたので、簡単です。Google Driveについては15GBまで無料なのも嬉しいところ。ただし、iCloud DriveやDropboxなど他のサービスとの連携ができないので、例えばiCloud Driveに課金していてそっちをメインに使いたいと決まっているような人はややお勧めしにくいでしょう。
使用感
メインの画面はこんな感じです。
タイトルが大きく見やすいのですが、その分メインで表示される論文数がやや少ないかなあという印象があります。
テキスト形式のメモや注釈機能は標準装備です。
iOSのアプリも非常に使いやすく、apple pencilで自由に手書きもできるのはいいですね。動作も軽快です。なめらかな操作感は冒頭の動画に載せております。
Webブラウザからの文献追加がワンタッチで可能なのも良い点だと思います。
設定の自由度が低いので、これといった特筆すべき点はありませんが、コンセプト通り「楽に始めることができて、簡単に使える」というところがこのソフトの総括になるかなと思います。
Papersの比較レビュー
概要
Papersは2007年にオランダのPhD studentが始めたもので、2016年にReadcubeという別のソフトの会社が買収し、現在は2つのソフトが一つに統合されているようです。2013年にipadなどのアプリ版が出た時不具合が多くて批判があり、ユーザーが減ったとか、、、。当時のことはあまり分からないのですが、周囲にユーザーが多くない印象があるのはこの辺の事情もあるのかもしれません5。
ですが、今回使ってみると思った以上に面白い機能が多く、画面もシンプルでなかなか良い印象はありました。
ストレージ
有料ですが、独自ストレージで容量無制限となっています。いくらでも入る、というのは素晴らしいことですが、万が一他のソフトに移動するときは同じ容量が必要になるわけですので、大体どの程度容量を使っているのは把握しておいた方が良いと思います。
使用感
シンプルなインターフェイスながらこの4つの中では最も多機能です。
まず文献をグループ分けするためのフォルダ(このソフトでは「リスト」と呼びます)ですが、通常の階層構造以外に、事前に指示した検索ワードのものをまとめていれておいたりできる「スマートリスト」というものがあります。
(上図:例えばこのようにすると"parkinson"が含まれる論文が自動で入ります)
例えばある疾患についての資料をまとめておきたいときに、毎回文献を追加するたびに、リストに加える作業をするのが面倒くさいというときに役立ちます。予めその疾患の名前を入れておけば全部そのリストに自動的に入るわけですね。これは他のソフトではなかった機能です。
さらに論文に関する情報として基本の文献情報以外にMetricsという機能があります。これはcitation(引用数)とAltmetricという指標を出してくれます。論文の重要度の指標がわかるわけですね。
ちなみにAltmetricというのはこのカラフルなぐるぐるで表されることがある数値です(下図)。
ジャーナルサイトに貼っていることもあるので、見た頃がある人も多いのではないかと思うのですが、Altmetric社が提供している指標で、SNSやウェブ上での反響を元に形成される数値で、具体的にどこでどんな人が引用しているのかも見ることができます。
papersではソフトの画面から直接引用している論文やmentionsというタブからどのように言及されているかも見ることができます。
その論文がどんな立ち位置にいるのかが分かるのは面白いですね。
他にもPapers独自の機能としてRecommendation機能があります。
これを押すとライブラリ全体の論文やそのリストからおすすめされる論文を中央の列に提示してくれます。ブラウザもPapers上で開いてくれますので、Papers上で論文追加も完結します。
Papersばかり機能を取り上げてしまって申し訳ないですが、pdfの閲覧画面でも機能が充実しています。左側の列にFigureだけまとめたり、引用文献一覧を表示したり(いちいち引用を確認するのに文末までいかなくても良い!)、関連論文も表示してくれます。
こういった多機能が好きな人には良いと思いますが、逆に情報があり過ぎて苦手という方はシンプルなPaperpileのほうが良いかもしれません。
また、iOS appでも同様の機能を色々使うことができ、アプリの使用感も良好でした。
まとめ
さて、ここまで4つの文献管理ソフトをまとめてみましたが、どうだったでしょうか?
一長一短がありますが、簡潔にまとめてみると
◆Zotero
→設定がやや面倒だが無料で拡張も自由自在、初心者からこだわりたい人までオススメ
◆Paperpile
→とにかくシンプルで使いやすい、余計な機能は不要で課金してもOKな人かつGoogle好きにオススメ
◆Papers
→多機能大好きで論文が大量にあり、課金もOKな人にオススメ
という感じでしょうか。Mendeleyは、、、すみませんが、これと言って推しポイントがありません!愛用者の方、ごめんなさい。
ちなみに、これから文献管理ソフトを使いたい、という人には個人的にはZoteroをオススメします!
これは自分が今使っているから好きというのもありますが、理由としては無料で使えるということと、もし使いにくかった場合は有料ソフトへの切り替えは比較的容易にできるということがあります。有料ソフトは当然ユーザー数を増やしたいため、他のソフトからの引っ越しも親身にサポートしてくれます。逆に無料ソフトはそのようなサポートに乏しいことが多いです。あまり気にしてませんがPaperpileからZoteroに引っ越すときはグループ分けがうまく引き継げませんでした、、、。
なので有料ソフトで始めたときに、「あれ?こんな機能も欲しいぞ」「こんな機能は要らないぞ」ってなったときに乗り換えがうまくできないと悲しい気持ちになります。
なお、PaperpileからZoteroに引っ越した時の感想とMendeleyからPaperpileに引っ越したときの感想(旧ブログ)は以下の記事にそれぞれまとめています。
というわけで、まずはZoteroから試してみるのが良いのではないでしょうか。
論文を集め始める前に早めに文献管理ソフトを導入して、ぜひ研究生活を楽に進めてみてください!
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