今回は論文の内容を自分の研究内容に合わせてメモしたり、整理したりするときやアイディアを練りたいときに役立つメモ整理ツール「Obsidian」を紹介したいと思います。
Obsidianはマークダウン形式のテキストを整理するのに重宝するツールです。メモ同士をネットワークとしてつなげたり、第二の脳と呼ばれることも多いです。また、ローカル環境で使う分には無料で使えるソフトですので、簡単に導入ができることも魅力的です。最近はAIとの連携ができるプラグインも登場していますので、今後もますます便利になっていく可能性が高いと言えます。
研究活動では膨大な情報を整理し、アイディアを構造化し、長期にわたって知識を蓄積していく必要があります。これまで私はEvernoteやNotionなどを使ってきましたが、インターネット上で使うアプリはデータ量が増えるとどうしても処理速度に限界がありますし、長期にわたるとサービス終了というリスクがあります。これらのリスクが回避できるObsidianはオススメです。
そんな「Obsidian」について基本的な使い方~プラグイン紹介まで詳しく解説していきます。
Obsidianとは?研究者が注目すべき理由
Obsidianは「第二の脳」をコンセプトとしたナレッジマネジメントツールです。単なるメモアプリではなく、情報同士の関係性を可視化し、知識のネットワークを構築できる点が最大の特徴です。また、オープンソースかつローカル使用が可能というのも類似ツールとは一線を画しています。メリットを簡単に以下にまとめてみます。
研究者にとってのObsidianのメリット
1. 知識の関連性を可視化
グラフビューなどのリンク構造で論文間の関係性や概念同士のつながりを視覚的に把握できます。これにより、新たな研究アイディアや仮説の発見につながります。
2. マークダウンベースの持続可能性
プレーンテキストで保存されるため、ツールが変わっても移行が簡単で資産を失うリスクがありません。長期的な知識の蓄積に向いています。ファイル構造も単純です。
3. ローカル環境での軽快な動作
オフラインでもサクサク動作するので時間に追われる医学系研究者にもおすすめです。
4. 柔軟なカスタマイズ
プラグインシステムにより、個々のスタイルに合わせた環境を構築できます。特に今後の大規模言語モデルとの組み合わせには期待が持てます。
Obsidianの始め方:セットアップ
インストールと初期設定
公式サイトからダウンロード
Obsidian公式サイトから無料でダウンロードできます。Windows、Mac、Linux、iOS、Android対応。ボルト(保管庫)の作成
フォルダを指定してvaultを作成します。要するにマークダウンをすべて保存しておくところを決めるということです。ちなみにObsidianは有料でこのvaultの同期機能がありますが、有料サービスを使わなくてもDropboxなどクラウドストレージ内に作成したりGithubと連携することで、デバイス間での同期は可能です。
Githubとの連携はこの辺のページが参考になるかもしれません。

ほぼこれだけで設定は完了です。
そもそもマークダウンとは?
Obsidianで補完するテキストはマークダウンをベースとしており、研究ノートの作成に最適です。マークダウンとは軽量マークアップ言語で、プレーンテキストで構造化された文書を作成できます。
マークダウンの基本的な記法や活用方法については、以前の記事と動画で詳しく解説していますので、そちらをご参照ください。
検索・リンク・グラフビュー・コマンドパレット
高度な検索機能
Obsidianの検索は単純なキーワード検索以外にも軽量で使いやすい検索機能があります。
基本検索
- Ctrl+Shift+F
で全文検索 or 以下の画像のアイコンをクリック
- 正規表現(大文字小文字のぶれなど)にも対応
- ファイル名、タグ、内容を統合検索可

演算子を使った高度な検索
path:, tag:, file: などの演算子を使うことで様々な方面でのフィルタリングが簡単にできます。以下に主な演算子とその使い方の例を示します。
file:
特定のファイル名やファイルパターンで検索します。
例:file:literature
→ ファイル名に "literature" を含むノートを検索tag:
指定したタグが付与されたノートを検索します。
例:tag:#methodology
→#methodology
タグが付いたノートを検索
例:-tag:#obsolete
→#obsolete
タグが付いていないノートを検索補足:Obsidianでは「#タグ名」のように書くことでノートに簡単にタグをつけることができます。#からスペースを開けてしまうとマークダウンの見出しのコマンドと認識されてしまうのでスペースを開けないように注意してください。
path:
特定のフォルダやパス配下のノートを検索します。
例:path:Projects/
→ "Projects" フォルダ内のノートを検索content:
ノートの本文に特定の語句が含まれるものを検索します。
例:content:"deep learning"
→ 本文に "deep learning" を含むノートを検索
これらを組み合わせることで、例えばfile:literature tag:#methodology -tag:#obsolete path:Projects/ content:"deep learning"
のように、複数条件で絞り込むことができます。
以前のZoteroの記事でも書きましたが個人的にはフォルダ構造よりもタグ管理がオススメです。
理由としては「不要になったら削除するなど柔軟に対応できること」、「重複が許されること」の2点です。アイディアというのは練っているうちにグループ分けも変化してくるものだと思いますので、ぜひどんどんタグをつけた管理をやってみてください。
次に挙げるグラフビューもあるため、不要なタグの管理・整理もobsidianでは比較的楽にできると思います。
リンクシステム:知識のネットワーク化
内部リンク
以下のコマンドで特定のノートやファイル、見出しとリンク構造を作ることができます。
[[論文タイトル]]
[[概念名|表示テキスト]]
[[フォルダ/ファイル名]]
ブロック参照
[[ファイル名#見出し]]
[[ファイル名^ブロックID]]
補足:Obsidianでは見出し内に「^ポイント」などと書き込むことでブロックIDと呼ばれるブロック単位のタグのようなものをつけることができます。ブロック単位で参照させたいときは便利です。
グラフビュー:研究領域の可視化
グラフビューは知識間の関係性を視覚的に表現するのに使えるObsidianならではの便利機能です。左側のツールバーから「グラフビューを開く」というボタンで開けます。星座みたいで綺麗です(楽しそうですが個人的にはあまり使ってません)。

活用シーン
例えばノート間でリンクを多く貼ったりしている人であれば以下の様な使い方が想定できます。
- メモによる全体構造把握
- 論文メモ間の関係性発見
- 新しい研究アイディアの発見
フィルタリング機能
これまでと同様にフィルタリング
- タグによる絞り込み
- 添付ファイルによる絞り込み
- リンク数による重要度表示
コマンドパレット
コマンドパレットは便利なツール集です。後述のプラグインを追加した際はここにコマンドが追加されることも多いです。
個人的によく使うコマンド
- アウトライン:アウトラインペインの表示
見出し毎のアウトラインが表示されます。
特に私の場合論文で使うようなよく読む論文をマークダウンに変換してこちらに保存しているので、アウトライン表示すると全体像がとても見やすいです(図右)。

変換にはMistral OCRのAPIを使っており安価で変換精度が高いので便利です。githubコードはこちら。
- テンプレートを挿入
こちらは後述のプラグインtemplaterによるもので、よく使うテンプレート構造を保管しておけます。
絶対覚えておきたいショートカットコマンド
ここまで紹介してきた機能ですが、ほとんどがCtrl+キーでショートカットで開けます。いちいちマウスを持っていくのは面倒なのでぜひ覚えてしまいましょう。
Obsidianでよく使うショートカット一覧
機能 | ショートカット | 簡単な理由・説明 |
---|---|---|
コマンドパレット | Ctrl+P | Pは「Palette」の頭文字 |
全文検索 | Ctrl+Shift+F | Fは「Find」、Shiftでグローバル検索 |
新規ノート作成 | Ctrl+N | Nは「New」 |
ノート間リンク挿入 | Ctrl+K | Kは「linK」のK |
クイックスイッチャー | Ctrl+O | Oは「Open」、直近で使っていたノートをすぐ開ける |
アウトライン表示 | Ctrl+Shift+O | Oは「Outline」、Shiftでアウトライン |
プレビュー/編集切替 | Ctrl+E | Eは「Edit/Explorer」 |
ページ内検索 | Ctrl+F | Fは「Find」 |
グラフビュー表示 | Ctrl+G | Gは「graph」 |
※Macの場合はCtrlをCmdに読み替えてください。
これらのショートカットは、直感的なキー割り当てが多く、他のエディタやアプリと共通しているものも多いです。覚えておくと作業効率が大幅にアップします。
Obsidianプラグインでの機能拡張
Obsidianの真価はプラグインエコシステムにあります。Obsidianはオープンソースプロジェクトであり、世界中の開発者がプラグインを開発・公開しています。試しに一度自作もしてみたのですが、結構簡単に作れたので、開発はしやすい方なのではないかと思っています。
今回は自分が使用しているプラグインを紹介していきます。
ちなみにプラグインは左下にある歯車ボタンから以下のウインドウを開いて「コミュニティプラグイン」>「閲覧」で検索し、インストールすることができます。

おすすめプラグイン
1. 論文管理・引用プラグイン
Citations
- Zoteroとの連携
- 引用の自動挿入
- 文献リストの生成
- GitHub: hans/obsidian-citations
これはZoteroからの文献リストを読み込んで引用可能と読書ノートをobsidian内に作れるようにするプラグインです。機能は控えめですが、個人的にはこれで十分かなと思っています。
まず、Zotero論文管理ソフトとの連携が必要で、BetterbibtexというZoteroプラグインが必要となっています。このZoteroプラグインについては以前の記事で紹介しています。
Betterbibtexであれば論文を追加した際に自動的にファイルの情報が更新されるため、いちいち文献情報を更新したりする必要がありませんので便利です。
使い方
Betterbibtexを使ってZoteroライブラリのbibファイル(CSL JSONでも可ですが)を出力します。
次に、obsidianからCitationsのプラグインの設定画面を開き、一番上の"Citation database format"を"Betterbibtex"に変更し、"Citation database path"に出力したbibファイルのパスを入力します。

Literature note folderに文献についてのメモ書きを保管しておけます。デフォルトではReading notesという名前になっていますので、それに合わせてフォルダを作っておきましょう。
こんな感じの構造です。
これで設定は完了です。
Ctrl+Shift+Eを押すとタイトルを少し入れるだけで該当する論文が絞り込まれて表示されます。

引用したい文献を押せば以下の様に表示されます。
@ferrerAlzheimersDiseaseInherent2022
これはデフォルトだとcitekeyと呼ばれるBetterbibtexで与えられる一意のkeyですので、ぱっと見何の論文を引用しているか分かりづらいと思います。
そこで再度プラグイン設定画面を開き、矢印の部分をtitle, authorなどに変更しておくと分かりやすいです。

例えばtitleと入れておくと以下のような引用形式になります。
@Electrophysiological testing is correlated with myasthenia gravis severity
よりそれっぽくしたいので私は{{authorString}}, {{title}}, {{year}}としています。
引用を入れると自動的にその論文についてのメモ用のノートがReading notesに作られますので、補足や概要などあればそちらに追加してもいいかもしれません。
プラグインの更新が3年前で止まっているようなので、今後もきちんと使えるかは不安ですが現時点では一応問題なく使用できました。複雑な構造でもないので更新が進んでもそこまで問題ないかもしれません。
他にもZotero integrationというプラグインもありますがこちらはZotero内のnoteやハイライトに対応するもので、もう少し複雑そうです。10か月前に更新されており、まだこちらの方が更新が期待できそうではあります。
2. AI連携プラグイン
Local REST API (MCP連携用)
- ObsidianノートをLLMやツールと連携
- MCP(Model Context Protocol)対応
- GitHub: coddingtonbear/obsidian-local-rest-api
MCPと呼ばれるLLMと接続するプロトコールがありますが、そこでobsidianとClaudeなどをつなぐために使われるプラグインです。
AIとObsidianの組み合わせの中ではこのプラグインと以下のMCPの組み合わせが最も強力だと思いますので、Claudeに課金できる方であれば一番オススメです。
Copilot for Obsidian
- AIによる文章要約・検索
- ノートの検索やとりまとめに便利です
- GitHub: logancyang/obsidian-copilot
上記のClaudeとMCPサーバーの組み合わせができない場合の次点として。こちらはノート内の文章すべてにベクトルを埋め込んで探すため、どうしても精度にはプログラムコードに依存してしまいます。どちらかと言えばLLMに丸投げしてしまう上記のMCPサーバーの方が優秀に感じます。
これらのツールについてはまた動画と記事を専用で作って紹介したいと思いますのでまたぜひ更新をお待ちください。
3. 便利機能プラグイン
Templater
- 高度なテンプレート機能
- 動的コンテンツ生成
- 日付や計算の自動化
- GitHub: SilentVoid13/Templater
使い方としてはテンプレート用のフォルダを作成し、そこにテンプレート構造を作っておきます。そうするとノートを書くときにコマンドパレットから「テンプレートを挿入」または左端のサイドバーにある「テンプレートを挿入」ボタンで簡単に追加できます。日付を自動で入れるなどの機能もあるため便利です。
実際の活用例
研究におけるアイディアをまとめる
ステップ1:Zoteroから研究や実験の根拠、アイディアとなる論文をマークダウンに変換してVaultに移動(python で自動化)
ステップ2:読んで気になる点やLLMで調べた追記情報を適当にマークダウンで追加
ステップ3:再度必要になった疑問やトピックについてClaudeとMCPサーバーを用いて質問し、まとめ直してもらう
例、論文をマークダウンとして取り込んでおくとClaudeに「スタチンと認知機能の論文の結果をまとめて」という雑なプロンプトを入れるだけで簡単に処理してくれます▼

ステップ4:まとめに応じて再度文献収集や実験を進める
Claude×MCPサーバー×Obsidianが便利すぎて実質ObsidianをRAGにした使い方になってます。
ブログの原稿づくり
ステップ1:アイディアや気になる記事、リンクなどをマークダウンで適当に収集する
ステップ2:Claudeで決めたトピックに関するアイディアや情報を集めてもらう
ステップ3:書きたい内容やアウトラインをまとめつつ、ClaudeやGPTに投げて下書きを作る
ステップ4:下書きをObsidian上で適宜練り上げて画像をつけたりする
ステップ5:完成したマークダウンをpythonでワードプレスにアップする
まとめ
Obsidianは研究者にとって単なるメモアプリを超えた強力な知識管理ツールとして使えます。マークダウンベースの軽快な動作と、リンクによる知識のネットワーク化機能、発展中のLLM連携により、研究活動を効率的にサポートします。
Obsidianのメリット
- 情報間の関係性を可視化し、新たな発見やアイディアの創出を促進
- プレーンテキスト保存により、ツール変更時のデータ移行リスクを回避
- 豊富なプラグインで個人の研究スタイルに最適化可能
- 無料で使用できるため、気軽に導入・継続利用が可能
- オープンソースであるためLLMとの連携が進んでおり、特にMCPとの組み合わせは素晴らしい
特に検索機能の演算子活用やタグ管理、ショートカットキーの習得により、文章を書いたり読んだりするのをスピーディーに処理できますし、Citations、Templater、MCP連携などのプラグインを活用すれば、文献管理から執筆手前まで研究ワークフロー全体を統合できます。
研究者の皆さんも、ぜひObsidianを活用して「第二の脳」として知識を蓄積・活用してみてください。
特に役に立っているLLMとの連携については更新次第こちらの記事にリンク追加します。
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